100億光年は孤独だろうか

柴幸男さん作・演出「わが星」のDVDを見ました。
凄かった。面白いのは確かなのですが、面白いの一言では片付けられない何かがあってブログに感想をしたためておこうと思った。だがこの魅力を上手く言い表すことが出来ずにもどかしい。うーん、30年以上も生きてきて私は一体何を感じてきたのだ!10年以上も書物をしていたはずなのにちっとも進歩していないじゃないか。好きなものを大きな声で好きだと伝えたくて、衝動をなんとか形にしたくて書いていたんだけどなぁ。こんな時に自分に「ちぇっ」と言いたくなってしまう失望。これでもいい大人です。
けれどそんな拙い事情を差し引いても本当に本当に素敵な作品だったと思うのです。なので、是非、一人でも多くの人にこれを見て欲しいなと思って以下を記す。


「ままごと」という演劇団体の作品です。音楽はクチロロの三浦さん。きっと有名なので知っている方もたくさんおられるでしょう。特筆すべきはクチロロの「everyday is a symphony」に入っている大名曲「00:00:00」が劇中で再構成されていることなのですが、まぁそれはさておいて。

わが星を見終わったあとにとても考えてしまったことは凄く陳腐なことで、「人間の根底にはリズムがあるんだなあ」ということと、「僕は、私は一体どこに立っているのだろう」ということだった。誰しも夜空を見上げながら「あの星の光は数年前の光なのだな」と胸をときめかせたことがあると思う。もしも今見た光が100億年前の光だとして、本当はこの瞬間既にその星は存在していなかったとしたら、そしてその星がとても美しく思えたなら、その星に会いに行きたいと思わないだろうか。光を超えて、高速を超えて、その星をずっと見つめていたいと願うかもしれない。説明しづらいのですが、わが星はそんな話でした。瑞々しくて、まるで大人になってから小学生時代の夏休みを振り返った時のようにドキドキとさせられる。
それと同時に星々の一生を描いた話でもあるわけでした。団地に引っ越してきた平凡な一家。すぐにくるくる自転公転してしまう地球のちーちゃん、しょっちゅう口喧嘩するまるでちびまる子のおねえちゃん的なおねえちゃん、お父さん、お母さん、お母さんとたまに一触即発なおばあちゃん。ちゃぶ台を囲んでテレビ見て誕生日を祝って喧嘩して当たり前の生活を送って行く家族。「嫌いなときもあるけれど、しょうがないじゃん、家族なんだし」と割り切って、そして毎日を普通に過ごしていく家族のみんな。そして隣に住んでいる友達の月ちゃん。ちーちゃんとは大人になるに連れて少しずつ距離が離れていくんだけれど、二人はアポロと光で繋がっている。当然ながら命は尽きるし星だって死んでしまう。星が、太陽系が死ぬまでをままごとをするように描いた作品でもあるのです。


望遠鏡を覗き込む少年はそんなちーちゃんたちを見ている。
遥か彼方から。ずっと見ていた。観察していた。
100億年後に太陽系が死んでしまうと分かっていても、何も出来ずに見守ることしか出来ない。
だけど少年は会いたいと願う。ちーちゃんに会いたいと願う。何も出来なくても、星の寿命に間に合わなくても、それでも前に進もうと決意する。高速を超えて前に進もうと決める。


そんな話なのです。正直に白状するとあらすじを見たとき「これ面白いんだろうか」と思ったのですが、見終わってじんわり泣いていたのはどうしてだ。星の一生と日常をリンクさせるのが本当に上手い。そして少年が夏の日に自転車で坂を下るシーンが秀逸だと思う。「ああ、こういう会話あるある」と頷きたくなる月ちゃんとの距離の離れ方。淡々と訪れる星の終わり。いつだって時間は流れていく。少年が加速するに連れて終わりは近付いてく。その高揚感。奇跡みたいな切なさ。生命すら超えて、時間そのものに祈りたいような気分になるのに、やっぱりいつも通りの毎日に着地する。起きて顔洗って御飯食べて電車乗って仕事して帰宅して風呂入って御飯食べて、みんながいて、みんながいる。普遍である。普遍の全てが詰まっている気がした。


この劇の根底にはビートがある。刻み続けるリズムがある。淡々と鳴っている音楽が本当に素晴らしいのです。そして台詞が時に歌い出す。言葉は空気を震わせて歌になる。音がリズムに乗り始める。思えば心臓が定期的にリズムを刻んでいるのだから、私たちはそういう生き物なのかもしれない。台詞が基本的にリズムに乗っているのです。まるで自然に話すように歌っている。ラップとしてはつたない感じなのに、それがたまらなくいいのです。劇中の「00:00:00」トラックも素晴らしい。この掛け合わせの相乗効果もまた奇跡みたいだ。
音楽辺りは言葉とリズムに物凄く意識的なクチロロが音楽を担当していることが大きいのだろうけども、最後の月ちゃんとのお別れシーンでぐっとこない人とは友達になれる気がしない。


本当に素晴らしいなと思うので、ぜひぜひオススメします!
もう明日が来ない日に、少年が自転車で疾走する。そんな青い無力や愛や衝動を私たちはいつまでも抱えているのではあるまいか。

わが星「OUR PLANET [DVD]

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