山内マリコ『ここは退屈迎えに来て』

Amazonはたまに破格のKindleセールするけど、今、文芸小説が色々と安いのでKindleユーザーは走るべし。平野啓一郎さんの『マチネの終わりに』や、泉ウタマロさんの『人生逆戻りツアー』なんかが激安になっていた。
そうして、ついにわたしは買ってしまった。
これが出版された当時に、Twitterサブカル界隈がやべえやべえとざわついていたので、あえてスルーしていた作品を。
─────山内マリコさんの<a href="http://amzn.asia/jfvu1rH">『ここは退屈迎えに来て』</a>
三十路を迎えた元サブカルな女性が東京から郊外へと帰郷して云々っていうあらすじで、とにかく表現にエッジが効いていて面白いらしい。面白いんだけど、もうね、とにかくサブカル勢への殺傷能力が高いらしくて、これ絶対読んだら手酷いダメージ受けるやつや……と、身構えてしまっていた作品です。実はわたし自身も現在は郊外住みだったりするのでw いやー、痛い思いをするんだろうなぁって。
で、どきどきしながら読んでみたのですが。
1ページ目からパンチありすぎてひゃああってなりました。恥ずかしすぎて悶絶ですよこれw 
最初の1ページで、昔に東京の中央線沿いに住んでインディーバンドやっててCDとか出してたっていう37歳のカメラマンが言うんですよ。「リトルモアから写真集出したかった」って。
はいリトルモア入りましたあああああああ。
っていうかまじでチョイスが絶妙すぎるだろう、リトルモアて。殺す気か! 本気か!!
知ってますか、リトルモア
わたしが多感すぎる思春期の頃にインタビューの内容を覚えるほど読みまくって影響されまくって人生がおかしくなった音楽雑誌『snoozer』を出版していたところです。ブルーハーツ本で有名な伝説の編集者・竹井正和さんという方が28歳にして!設立した会社であり、音楽誌以外にも映画制作とか音楽レーベルとか色々やってたのですが、なかでも写真集が一番有名でしたね。わたしもリトルモアの写真集はいっぱい持ってます。文芸誌もやってて、それも未だに持ってますねw なんか捨てられなくて。
なんつーか、謂わばサブカルちゃんたちの憧れですよ。憧れの総本山。音楽やアート系の人なんかは尚更だろう。
実はわたしが頭空っぽの若者だった頃、文芸誌『リトルモア』の面接を受けたことがある。
あれ確かバイトだった気がするんだけど(※記憶が曖昧)、いざ会場に向かってみれば自分以外は全員灰色リクスーで「詰んだな……」と絶望したのは良い思い出です(当時はまじでアホだったので金髪に私服だったのだ! しかもバンドTシャツ!! その場で切腹するべきだった)
でもそんな地雷みたいな若者も受け入れてくれる懐の深さがリトルモアにはあった(音楽レーベルの方に回された)
思えばわたしが今、ここで、謎の文章を書いているきっかけだってリトルモアだったのかもしれない。
頭空っぽの若者になる少し前の頃から、音楽ニュースをまとめたり、音源レビューをするブログを始めた。でも次第にそれだけじゃ飽き足らなくなり、日常のことだとか、思っていることだとかを書き記し始めた。そうしたら、リトルモアの方がコラムを書いてみませんかと連絡をくれたのだ。
ちょっと当時の自分は本当に未熟だった上に色々な問題を抱えていて、結局それは辞退してしまったけれど、他人の反応とか一切気にせず内面を吐き出していた時期だったので、そんな風に反応してもらえたことが嬉しかった。画面の向こうの『誰か』を初めて強く意識したかもしれない。画面の向こうの知らない『誰か』に言葉が届くって、それはとても、とっても、嬉しいことなのだ。
ちなみにわたしは『snoozer』のバイトも応募したことがあるw
規定のアルバムレビュー二本書いてさ。リトルモアにて、リアルタナソウさんと面接したんだぜ……。震える……。けど読んでる新聞を尋ねられて頭が真っ白になった思い出w 懐かしいなぁ。ほんっとにわたしは救いようがないくらいに阿呆なガキでした。
と、1ページだけでこんだけ羞恥悶絶モノの思い出がぶわーーーーーっと走馬灯のように蘇るんですよ!!
ほんっとーに言葉のチョイス・センスが凄すぎる!w
退屈の吹き溜まりみたいな郊外の描写とかね、ひぃぃってじたばたするくらいに的確なので、『リトルモア』にビクンッビクンッとする類の人は絶対に読んで欲しいです。ページを進める手が止まらないが、読んでいるとハートががりがり削られてつらい。でも面白い! なんてドSな小説なんだろう。素晴らしい。